【医療関係者向け】K-methodについて

K-methodを見学したドクターから寄せられた感想

フジ虎ノ門整形外科病院 整形外科
土田 隼太郎 先生

初めてK-methodを見学した時、小皮切にもかかわらず常にいい視野が得られ、滞りなく手術が進行していて、従来の椎弓形成術とは全く別の手術のように感じた。あまりにスムーズに進行していくさまを見て、あの体位とあの開創器があればあのようにして何とか同じ手術できるだろう、という漠然としたイメージを頭に描いた。

が、しかしである。自院に戻って早速K-methodを始めた経験豊富な上級脊椎外科医は、いきなり壁にぶち当たっていた。展開は5cmと大きくしたにもかかわらず、出血のコントロールに苦慮し、思うような視野が得られない。開創器の代わりに自分が筋鈎を引き、両手でハイスピードドリルを操作する。そんな"今まで"の方法で"新しい"手術に挑んでいたため、無事に手術は成功したものの、見学で見たようなスムーズな手術をすることはできなかった。

自分は定期的に木原先生のところへ手術見学に行っていたが、やがて自分もこの手術を始めるにあたり、できる限り"本家"と同じになるように環境を整えて臨むようにした。具体的には①体位:頭蓋直達ピン固定による頚椎正中位 ②手術機械:K-project製作の開創器、電動のハイスピードドリル、ヘッドライト である。

各操作にわけて話を進める。

まず、展開について。 "正中"をはずさないようにすすめる。その際、メルクマールとなるのが項靭帯である。スプリングフックと開創器を使って適度なテンションをかけながら展開していくと、思いのほか出血がほとんどなく棘突起に到達する。テンションをかけすぎると、かえって正中がわかりづらくなる。正中を外すと必ずといっていいほど出血する。これを修正できないと、術野は血の海になってしまう。出血した場合は、その都度こまめにバイポーラで止血していき、可能な限り無血術野の確保に努めることが、その後のストレスを減らす。C6/7の視野を得るときに、筋が垂れ下がってきて視野の妨げになることがあるが、このとき、"モンローゲルピー"が有用である。両刃の開創器を重ねてかけることができるので、手元で操作の邪魔になることがない。当初は5cmくらいの皮切であったが、10例を越すころから4cmでもC2-C7まで十分な視野を得ることができるようになった。操作の大半は術者一人で行う操作であり、反対側の展開時に助手に筋鈎を引いてもらうくらいだが、慣れてくるとすべて一人で操作ができるようになる。

続いて、骨の掘削がメインの操作になる。自院で使用しているのは、エアードリルのハンドスイッチタイプで、パワーはあるがブレも大きい。よって、両手でドリルを操作し、助手に吸引と冷却水をやってもらっていた。狭い視野なので、助手は術野を見ることができず、吸引は当然ブラインドの操作となる。少し削っては吸引して確認するという操作の繰り返しになり、時間がかかりストレスフルな操作だった。しかし、電動でブレの少ない、なおかつフットスイッチタイプのドリルをデモで手配できたときは、利き手(術者は左利き)にドリルを持ち、非利き手に吸引管を持って操作した。こちらのほうが吸引で常に操作している部位を確認することができ、また、そもそもワンハンドで掘削を行ったほうがバーの先端の感覚がわかりやすいと感じた。

続いて、硬膜外の操作について。硬膜外静脈叢からの出血のコントロールに苦慮することが多いが、ポイントは、スタンツェによる骨・黄色靭帯の切除をどのようにやるかによると思う。骨の掘削の全てをドリルで行うと危険であるし、多くを残して残りをスタンツェで行うと、出血のコントロールが難しくなる。脊柱管側の骨皮質をegg shell状に残して、まさに卵の殻をつついて割るようにして脊柱管に達するとリスクもなく、出血も少ない。椎弓を挙上してから黄色靭帯の切除・骨のトリミングを行うようにしてから、硬膜外静脈叢からの出血量が減ったように思う。

次に、ヒンジの掘削について。ポイントは削り過ぎないことと、一椎弓だけで上げようとしないことだと思う。溝を深くしても、挙がらない部位ではあがらないのである。深く掘りすぎて椎弓切除になった苦い経験もある。ヒンジは外側凸に弓状に作製するのだが、最初から適切な位置に掘るのはなかなか難しい。しかし、適切な位置に掘れば、思いのほか浅い溝でも椎弓は挙がってくれる。よって、ある程度の深さで上がらなければ、内側または外側に溝を広げてみるといい。また、重なっている上位の椎弓が邪魔になって上がらないことも多いので、上位椎弓が挙がるようになってから再度試みるとよい。

次にスペーサーの設置について。ポイントは、頚椎伸展時に他のスペーサー・椎弓がお互いに干渉しないように、椎弓をトリミングすることだと思う。その点を改善するようになってから、術後のレントゲンでのスペーサーの配列がきれいになり、経過観察中のスペーサーの転位の頻度も減少した。

また、これは始めに触れるべきことだが、意外に重要であると思うのが体位である。中間位を保持すること、スキントラブルを起こさないことを考えると、やはり頭蓋直達ピン固定が必須であるように思う。伸展が強いと危険であるし、屈曲位になると、筋の緊張が強くなる、術野が大きくなり操作の範囲が大きくなる、椎弓間が開大し危険である などと、手術に与える影響は非常に大きいものである。

以上、各操作に分けてポイントであると思うことを挙げてきたが、それぞれの要素が一つでもかけると思うように手術が進まない。そういう意味で、このK-methodは非常にpit fallの多い手術であると感じた。ひとつひとつの要素を確実にすることの積み重ねがストレスのない、いい手術につながるのである。